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2019.10.26
近衛 はな シネマ倶楽部

新作映画紹介トーク 「カツベン!」

新作映画紹介トーク「カツベン!」

ゲスト
周防 正行さん(映画監督)

 

カツベン! 周防正行監督の登場!
シネマ倶楽部においでいただいたのは、3度目です。
今回もすばらしい新作を連れて来てくださいました。

「カツベン!」

映画に音がなかった時代、役者のセリフに声をあてたり、物語を説明した活動弁士たちのお話です。
日本では、最盛期には8000人近くの弁士が活躍していたといいます。
観客は映画を観に来るのではなく、弁士の語りを楽しみに劇場を訪れたのだとか。
「こんなに弁士が大活躍したのは日本独特の現象、日本の語りの文化の伝統がその背景にある」 のだそうです。
活弁の面白さは「弁士の語りによって、同じ映画がまったく別物になるということ」 と監督はおっしゃっていました。
悲劇が喜劇になり、駄作も傑作になる。
どんな映画を語っても、お色気ものになってしまった弁士もいたのだとか。

主演の成田凌さん、劇中で見事な活弁を披露されています。
演ずるにあたって相当な努力をされ、プレッシャーをはねのけたられたのだと想像します。
成田さん演ずる俊太郎は、とっても愛すべきキャラクターです。
ほかのキャストの方々も、周防組でいきいき演じておられて、
竹内豊さん演ずる刑事や成河さん演ずる映写技師も印象的な役どころでした。

今回の製作をとおして、監督は、 「無声映画を当時の日本人が弁士の説明つきで見ていたという事実、
そのことが日本映画の歴史に与えた影響の大きさに思い至った」とのことです。
たとえば「生まれてはみたけれど」など優れた無声映画を撮っている小津安二郎監督も、
当時は劇場で弁士の説明つきの映画をみていたわけで・・・

現代弁士の第一人者、澤登翠さんは「小津作品は『俺の作品に説明は不要だ!』と言っている気がする」とおっしゃているそうですが、
ある意味、映画を各々の方法で説明してしまう弁士に対する反発心もあってこそ、
小津監督は映像だけで成立する映画づくりを目指し、自らのスタイルに磨きをかけていったのかもしれません。
黒澤明監督も、人気弁士であったお兄さんの影響で多くの海外の優れた映画に触れ、
作品にもすくなからぬ影響を受けていると伺いました。

映画「カツベン!」の劇中では、活気ある劇場の様子が描かれています。
映画を見る子供達の目は異様に輝いています。
まだ映画が生まれてほやほやの技術であった時代、
多くの人がその面白さ、可能性に胸踊らせ、様々な実験を試みていた時代、
映画がみんなで見る一大娯楽であった時代のことを思いました。
当時の劇場に、一度でいいからタイムスリップしてみたい……!!

今は映画館の様子は様変わりし、映画をとりまく環境も大きく変わりました。
映像は誰もが作ることができるもの、映像は一人で小さな画面で見るものになりつつあります。
(最近流行りの応援上映は、先祖返りみたいで、ちょっと面白いです。。)

これから映画はどうなるんだろう・・・ 答えはでませんが、もうすでに存在する名画の数々は、間違いなく人類の遺産です。
周防監督に以前、小津安二郎の魅力について伺ったことがありました。
「人間生まれるときも死ぬときもひとり、 だから生きている間はせめて誰かと一緒にいたいと思う、
そういう思想が、映画の根底には流れている」だから、小津作品が好きなのだ、と。
今回、新作を拝見して、周防監督の映画にも、こういう思想が脈々と流れ込んでいる、そんな風に感じました。
あたたかい映画です。映画愛にあふれた一本、ぜひ劇場でごらんください。

 

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